拝啓、お元気でお過ごしの事と存じます。
この度は北イタリア日本人会と在ミラノ日本国総領事館のお世話になり皆様に見て頂く機会を得られたことに深く感謝致しております。早いものでイタリアに来てから31年が経ってしまいました。今回二つ程この場を借りて述べさせて頂きたく、お便りしております。おそらく世界中の人達がイタリアと聞くと、手仕事の世界がいまだ
残っていると想像しているとおもわれます。ですが残念なことにそれに反し、現実は見るも無残に60歳代の職人さんたちがかろうじて残っているだけ、というのが現実のようです。私が危惧いたしますのは、いまや世界が経済効果だけを重んじた方向を見ている事です。大量生産、大量消費が確かに人に豊かさをもたらした事は事実ですが、それだけで社会が進むことを想像してみてください。人手は余り、人の純朴さが失われ、文化が破壊され、大げさな表現かもしれませんが人がロボット化され、他の人の心が分からなくなってゆきます。たとえは悪いですが養殖の鮭は育てられ食にされる運命ですが、自然の鮭は川で生まれ、大海に
旅に出て、又生まれた川に戻るのです。これが自然の理のようです。それぞれの環境でこの問題を真剣に考える時がきていますので、是非この期に心に留められたらと思っております。私の洋服屋としての基本は全て手で縫うことです。今回その基本を皆様方(特にお子様)に見て頂きたく、準備いたしました。要はミシン、電気が無くても服は縫えることを。150年前に今の背広の原型ができ未だにそれを着続けているわけですが、本来の良さを体感されている方はほんの数パーセントです。その良い服の基本もこの場を借り説明したいと思います。サルトリア・イプシロンの服の流儀を公開いたしますので、一見していただきますと今後の服の選びかたの参考になると存じます.
敬具 船橋幸彦
追伸、ユネスコに「手工業を守る為の機関」を要請する為の署名簿を用意してますので、
是非ご協力下い。